公認心理師のこころふです。
これまで、さまざまな依存症について書いてきましたが、今回はゲーム依存について書きたいと思います。
WHOも認めたゲーム依存
2019年の5月、WHOが発行するICDの最新版(ICD-11)に、Gaming disorder(「ゲーム障害」「ゲーム症」と訳される)が収載されることが決まりました。
各種メディアで取り上げられ、さまざまな意見がとびかっています。
これと関連し、香川県で、通称「ゲーム規制条例」が施行されたことも話題を呼びました。
ゲーム依存って何?
簡単に言えば、ゲームにはまりすぎて、やめようとしてもやめられず、日常生活に支障をきたしてしまう状態です。
アメリカ精神医学会がつくったDSM-Ⅴ(精神科医の診断マニュアル)では、インターネット・ゲーム障害という項目があります。
もっともこれは、今後の研究課題として暫定的に定められたもので、厳密にはまだ診断名として確定しているわけではありません。
一方で、2019年の5月、WHOが発行するICDの最新版(ICD-11)に、Gaming disorder(「ゲーム障害」「ゲーム症」と訳される)が収載されることが決まりました。
こちらは、オンラインゲームだけではなく、オフラインゲームも対象に含みます。
(実際はオンラインゲームへの依存が多いとは言われています)
このことは各種メディアで取り上げられ、さまざまな意見がとびかっています。
これと関連した話で、香川県で、通称「ゲーム規制条例」が施行されたことも話題を呼びました。(この話題はいつか別の記事で書きたいです)
原因は?
人間の脳には報酬系と呼ばれる、人間が快感を得るための神経回路があります。
前頭前野や側坐核、海馬などの部位が関係しているといわれています。
人間は楽しいことをすると、報酬系が活性化します。
脳内にドーパミンと呼ばれる物質が分泌され、それが快感情を引き起こします。
快感を覚えた脳は、刺激を繰り返し得ようとしますが、次第に同じくらいの刺激には反応しづらくなり、より強い刺激でないと満足できなくなってしまいます。
ゲームの場合であれば、短時間のプレイでは満足できず、次第にプレイ時間が長くなっていきます。
ゲーム依存の原因については、上記のような説明がされることが多いと思います。
かつて「ゲーム脳」という言葉が生まれ、ゲームが脳を委縮させるなどの主張がはびこった時期もありました。
先に挙げた香川県のゲーム規制条例も、そのような主張が根拠の一つとなっているようです。
でも、よく考えてみましょう。
ゲームは本当にそんなに悪いものなのでしょうか?
報酬系やドーパミンだけでは説明できない
結論からいうと、先ほどの「ゲーム脳」は、現在ではかなりのトンデモ理論として位置づけられています。
科学的な根拠がないのです。
ゲームプレイヤーは身近にもたくさんいますが、ほとんどの人は、生活に支障が出るほどハマることはありません。
私自身もゲームは大好きで、たしかにときどき、猛烈にハマってしまうため、脳が快感を得ている感覚はわかる気がします。でも、例えばそれで仕事をサボったりはさすがにしません。
多くのプレイヤーが、熱中はするけれども、どこかで折り合いをつけてゲームと付き合っているはずなのです。
また、報酬系やドーパミンの話も、たしかにゲーム依存の一端を担っているとは思いますが、それだけでは説明は不十分です。
「シリーズ依存症①~なぜ人は依存症になるのか?~」などでも書いたとおり、依存症とは別の精神疾患、生きづらさ、孤独感などの、辛い気持ちが背景にあることが非常に多いのです。
ゲームを手に取れば、少なくともプレイしている間は辛い気持ちを紛らわすことができます。少しでも楽になるという経験をすると、それを繰り返し、最初は短い時間だったとしても、次第に時間が長くなるということは容易に想像ができます。
ゲーム障害といえるほどの状態に陥るかそうでないかは、個々に抱えている精神的な苦痛のレベルが大いに関係しているのです。
合併する精神障害や発達障害
ゲーム依存は、別の精神疾患との合併が多いと書きましたが、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。主だったものを3つ取り上げてみます。
①AD/HD(注意欠如/多動性障害)
先行研究から、ゲーム依存者の中には、かなりの割合でAD/HDを抱える人が含まれていることが分かっています。
AD/HDの特徴として、多動性、不注意、衝動性がありますが、なかでも不注意や衝動性が依存と関わっているといわれています。
②うつ病
うつ病もゲーム依存と強い関係があることが分かっています。ともすると、ゲームへの没頭がうつ病を引き起こすと言われがちですが、はっきりとした根拠はありません。逆に、うつ病がゲームヘの過度な没頭を引き起こすと考えることもできます。ゲームをすることでうつ症状が改善したという報告もあります。
③不安障害
強い不安はゲーム依存と関係があるといわれています。これも同様に、必ずしもゲームへの没頭が不安を引き起こすとは限りません。むしろ、不安を和らげるためにゲームをするということもあり得るでしょう。
他にもさまざまな精神疾患との関係を指摘する研究は多くあります。
おそらく、ゲーム依存が単独で発症するケースの方が少ないと思われます。
実はICD-11で収載される「ゲーム障害」についても、単独の精神障害として認定されることには賛否があります。ゲーム障害を一つの疾患とみるのか、生きづらさに対するコーピング(対処行動)とみるのか、今後も議論が続いていくこととは思いますが、臨床的には後者の考え方のほうが有用ではないかと思います。
予防方法
結論から言うと、確立された予防方法はありません。
ただ、先行研究によれば、ゲーム依存のリスク要因というものが示唆されています。つまり、これがあるとゲーム依存になりやすい、といった要因です。
これには、学校になじめない、いじめを受けている、成績がふるわない、親からの厳しいしつけ、虐待、本人の発達障害、精神障害などがあります。
これらのリスク要因を緩和することが予防につながる可能性はあります。
例えば、学校になじめるよう支援したり、学習が少しでも進みやすいよう配慮したりと、学校でできることもあります。
発達障害に関して言えば、早期からの診断・支援があると、予後がいいということも分かっているので、支援の手を入れてあげることが、予防にもつながり得ると思います。
治療方法
こちらも同様で、確立された治療方法はありません。
薬物療法や一部の心理療法(認知行動療法など)が有効だったという先行研究はあります。
ただし、例えばうつ病を合併している場合、うつ病に対する投薬治療や認知行動療法が行われることで、うつ病が改善し、ゲーム行動も落ち着く、というケースが多いようです。
つまり、ゲーム依存そのものに効果があるというより、うつ病が改善された結果として、ゲーム行動も改善されたとみるのが妥当だと思います。
AD/HDが合併するケースも同様です。投薬により、AD/HDの症状が落ち着くと、ゲーム行動も落ち着くというケースがあるのです。
これらのことからも、ゲーム依存は、別の精神障害や発達障害などにより2次的に起こる症状、もしくはコーピング(対処行動)とみるほうが、しっくりくる気がします。
おわりに
10数年現場で働いてきた私の経験からも、子どものゲームプレイに関する相談は増えてきていると感じます。なかには、本当に「ゲーム障害」と言えそうな子も目にします。
ただ、これは私自身への戒めでもありますが、表立って見える問題行動にばかりフォーカスしない方がよいということです。
ほとんどの場合、問題行動の裏には、その人が抱える精神的な苦痛や生きづらさが隠れています。
これは何も依存問題に限った話ではありません。
ただ、個人的には、特に依存問題でこの傾向、つまり表立った症状にのみ目がいってしまう傾向が強いのではないかと感じています。
一部でゲームを過剰に敵視するような風潮があることも、これと無関係ではないでしょう。
私は、依存問題の中でも、特にゲームやネットへの依存に関心が強いので、今後もこのテーマについては書いていくつもりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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