公認心理師のこころふです。
前回、前々回と、ギャンブル障害、ゲーム障害と行動嗜癖の話を書きました。
今回は、その流れで、クレプトマニア(窃盗症)について書きたいと思います。
元マラソン選手の逮捕。なぜ?
2年ほど前、元マラソン選手の原裕美子さんが、菓子3点、合計382円を万引きし、逮捕されました。
原さんは、決して買うお金がなかったわけではありません。
なのに、なぜ?
その後原さんは自身がクレプトマニアであることを告白し、話題となりました。
このときにクレプトマニアという言葉を知ったという方も少なくないと思います。
クレプトマニアとは?
クレプトマニアの日本語訳は「窃盗症」です。
一言でいえば、「盗みをやめるにやめられない精神疾患」です。
「盗みへの嗜癖」と言い換えてもよいでしょう。
DSM-Ⅴという精神科医の診断マニュアルでは、以下の診断基準が示されています。
A.個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
B.窃盗におよぶ直前の緊張の高まり
C.窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感
D.盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない。
E.盗みは、素行障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。
つまり、基本的には「利益のための窃盗」ではなく、「窃盗のための窃盗」であるといえます。
摂食障害との合併
クレプトマニアは、摂食障害との合併が非常に多いといわれています。
そのメカニズムは、よくわかっていないそうですが、クレプトマニア研究の第一人者である竹村医師は以下のとおり解説しています。
摂食障害はいわば、病的な飢餓状態にあり、そのなかで涸渇恐怖が生じます。
そのため、物を異様にためこむ傾向(ためこみマインド)があるのです。
この涸渇恐怖、ためこみマインドこそ、窃盗行動の原動力なのではないか、とのことです。
なお、合併するのは摂食障害だけではありません。
クレプトマニアを抱える人のうち9割ほどに、気分障害、アルコール依存など、何らかの合併症があるとのことです。
精神障害であり、犯罪でもある
クレプトマニアの特徴の一つに、司法的な対応がからむということがあります。
これは精神障害か犯罪かという2択ではなく、精神障害であり犯罪行為でもあるという認識が正しいと思います。
竹村医師は、「刑事責任は当然負うべきだが、本質的な解決を目指すなら刑期はできる限り短くし、治療に専念できる環境を整えるべきだ」とい主張されています。
回復のためには
簡単にですが、回復のための資源等を書きます。
①専門医療機関
クレプトマニアを対象とした専門医療機関は、全国的にも数少ないのが現状です。
よくクレプトマニアについて報道がなされるときに出てくるのが、群馬県にある赤城高原ホスピタルです。竹村医師が院長をつとめています。ここには、全国から患者が集まってくると聞きます。入院治療を受ける方も多くいるようです。薬でよくなるものではないので、使うとしても補助的な手段となります。
②精神療法
認知行動療法や家族療法などの精神療法が用いられることがあります。
③自助グループ(KA)
他の回でも書いていますが、依存症業界の重要な資源として自助グループがあります。クレプトマニアの場合、KA(クレプトマニアクス・アノニマス)というグループに参加することになります。ミーティング(それぞれが体験や想いを順番に語る)を通して、
自分の課題と向き合っていくことになります。
おわりに
正直なところ、これまでの臨床経験で、はっきりクレプトマニアと診断されている人の相談を受けたことはありません。
ただ、そうじゃないかなと思える相談者は何人かいました。
印象的だったのが、まだ小学生だった男の子が、何度も万引きを繰り返し、そんな自分を責めて涙を流していたことがありました。
過去に虐待を受けた経験のある子でした。
他にも、さまざまな生きづらさを抱えている当時高校生だった男の子が、やはりお店に入るときに衝動的にものを盗ってしまうと話していたことがありました。
そういった方の不安や辛さは計り知れないものがあります。
最悪の場合、思い詰めて自ら死を選んでしまうこともあるそうです。
まだ私自身勉強すべきことがたくさんありますが、今度そういった方に会うことがあれば、できるだけの援助をしてあげたいと思っています。
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