こんにちは。
公認心理師のこころふです。
このシリーズは、最初からある程度どんなテーマを書くか決めてから始めました。
書くテーマが決まってるのだからサラサラと書けるかと思っていたのですが、書けば書くほど自分がよく分かっていない部分が浮き彫りに・・・。参考文献を熟読することになり、全くラクではありませんでした( ;∀;)
でも自分自身の勉強にもなるので、もう少しだけ続けます!
よろしければお付き合いください(^^)
今回はリストカット、もしくはもっと広く「自傷」についてです。
自傷は、依存というカテゴリーに含めてよいのか迷いましたが、行動嗜癖(アディクション)の一種ととらえる考え方があります。
少なくとも共通する部分があるのはたしかなので、取り上げてみたいと思います。
実のところ、私自身はリストカットをする方の相談に応じた経験は多くありません。(同僚が対応に苦心する姿を見ることはしばしばありました)
でもだからこそ、今後の自分のためにも知識を整理しておきたいと思いました。
なお、本記事は、国立精神・神経医療研究センター松本俊彦先生の『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)を大いに参考にしています。
なぜ切るのか?
10代の若者の1割くらいがリストカットの経験があるそうです。
理由について、よく「アピールのためでしょ?」「かまってちゃんなんでしょ?」と言われることがあります。正直なところ、私自身もそう思っていた時期があります…。
たしかに一部そういう人はいるのでしょうが、多くの人はそうではありません。そもそも、「自傷の96%はひとりぼっちの状況で行われ、しかも、そのことを誰にも告白しない」という研究結果があるそうです。
では、なぜ切ってしまうのでしょうか。
多くの場合、激しい怒りや強い不快感に襲われたときに、切ってしまうそうです。
これは、「シリーズ依存症① 人はなぜ依存症になるのか?」でも取り上げた「自己治療仮説」につながります。
やったことのない人間(私もそうです)にはわかりにくいことですが、手首を切るなどの自傷行為により、気持ちがスッとしたり、ホッとしたりするのだそうです。
辛い気持ちを和らげるためにやっている場合が多いのです。
これが次第にクセになり、アディクション化してしまうのです。
つまり、見方を変えると、リストカットは生きていくための手段と言うことができるかもしれません。
しかし、もちろん根本的な解決になるわけではありません。
こういった自傷行為は次第に慣れてしまい、少しずつ頻度を増やしたり、より深く傷つけてしまったりと、行為がエスカレートしてしまいます。
コンパスやシャーペンで体を突き刺すなどの過激な方法も出てきたりします。傷つける箇所も増えていきます。
ここまでくると、もはや意志の力だけでコントロールできる状況ではありません。
どのように対応したらよいのか?
周りの大人はどのように対応すべきでしょうか?
単純に「やめなさい」ですむ話ではないのは明らかです。
いくつかポイントを挙げてみます。
①相談してくれたことを支持する
相談に来てくれた場合は、「よく来たね」「よく話してくれたね」と声をかけてあげることです。切る、切らないよりも、信頼できる人に話せることのほうが重要であることを伝えてあげましょう。
②過剰に反応しない
自傷行為を打ち明けられたら、感情的になってしまうことは仕方ないことです。普通そうだと思います。でも、過度に反応してしまうことは、自傷行為を強化してしまう可能性があります。二次的にアピール的な行動に変えさせてしまう恐れもあります。
松本先生曰く、「冷静な外科医のような態度」で応じるのがよいとのこと。穏やかかつ冷静な態度で傷を観察し、必要な手当てを粛々とこなすということです。
③置換スキルの提案
切ってしまう目的は、辛さの解消にあるわけなので、別の方法で代替できないかを考えていきます。
具体的には、手首に輪ゴムをはめて「切りたい」という衝動を感じたときにパチンと輪ゴムをはじく、香水をかぐ、紙をやぶる、氷を握りしめる、腕を赤く塗りつぶす、大声で叫ぶ、筋トレなどの手段があります。
ただ、こういった刺激的な置換スキル自体がエスカレートしてしまうこともあるそうなので、最終的には深呼吸やマインドフルネスなどの静的な置換スキルを習得していくことを目指します。
④保護者への説明
もし、未成年者から「親には内緒にしてほしい」と言われた場合、支援者は困ってしまうと思います。本人との信頼関係を考えるなら、内緒にしたほうがいいのか…という思いも出てくるとは思います。
ただ、万一本人が自殺企図した場合などには、当然保護者に情報を伝えなかった支援者の責任が問われることになるでしょうから、非常にリスクが高いと言えます。できるだけ本人の同意を得たうえで、保護者に伝えるのが現実的な選択肢だと思います。保護者には、本人に感情的な対応をとらないよう伝える必要がありますね。
リストカットなどを抱える人の家庭には問題がある可能性が高いので、その後のケースワーク(家庭調整)も重要になります。いろいろなケースが想定されるので、ここではとても書ききれませんが…。
⑤支援者が一人で抱え込まない
これはもう絶対というほど必要なことで、支援者側も一人で抱え込んではいけません。なるべくチームで対応するべきです。関係機関との連携も必要になるでしょう。
自傷・自殺願望などがからむケースは、相談を受ける側も、かなりの緊張感・ストレスを感じます。よほどの熟練者でない限り、それが当然だと思います。
支援者側のメンタルに余裕がないと、いい支援はできません。
おわりに
難しい分野だと思います。
リストカットに対して、「アピール目的だろ?」と軽く考えるのもよくないし、かといって深刻に考えすぎて感情的に反応してしまうのもよくありません。すぐにやめさせようとするのもよくありません。
やはり重要なのは、信頼関係ということになると思います。相談できたり、正直に話せたことを支持してあげる。まずはここからですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
よかったら、応援よろしくお願いします。
<参考文献>
『自傷・自殺する子どもたち』(著:松本俊彦) 合同出版