こんにちは。
公認心理師のこころふです。
今回も依存症領域でよく出てくるキーワードについて解説します。
テーマは「底つき」です。
「底つき」とは?
依存症は否認の病ともいわれるように、本人がなかなか自身の問題に向き合うことができないといわれています。
そこで、伝統的にいわれてきたのが、「依存症者が回復するには、もっと痛い目をみないとダメだ」「もっと底をつかないとダメだ」ということです。
治療者は、依存症を抱える本人が自分から何とかしようとするまで放っておいたり、家族に本人を突き放させたりし、本人が心底困るタイミングを待つという対応が主流な時代がありました。
突き放された本人は、途方に暮れ、人生のどん底を体験し、それが回復への転換点になるという考え方。これが「底つき体験」と呼ばれるものです。
「底つき」は本当に必要?
たしかに、いったん人生の底を味わうことで、自分の問題に向き合えるようになり、回復に向かうというケースはあります。
しかし、リスクもあります。
どん底を経験して、立ち直ろうと前向きに思える人ばかりではありません。
心身の健康を損ない、経済力も、人間関係も失った状態で、回復を志すことはとても難しいことです。
自暴自棄になり、最悪の場合、自ら死を選んでしまう人もいます。
最近では、依存症者に底つき体験させることにエビデンスがないことも指摘されており、むしろ危険な方法だといわれるようになりました。
しかし未だに、本人を「底つき」させるよう家族にアドバイスする関係者がいることもたしかです。
それまで何をやっても上手くいかなかった家族は、藁にもすがるような思いでこれを信じ、本人を「底つき」させようと突き放すことでしょう。
それで上手くいくケースもあるので、100%否定するつもりはないのですが、リスクがあることは知っておくべきです。
少なくとも、安易に勧めていい方法ではありません。
あとは、実際に回復を経験した当事者が、かつてのどん底のような時期を振り返って、「あれが“底つき”だったんだ」と感じたり、話したりすることはあると思いますが、周りがあえて「底つき」状態に陥らせる必要はないと思います。
「底つき」を待つより「動機づけ」を!
現在では、ひどい「底つき」を待つより、本人が早い時期に生活を見直し、依存問題に向き合えるよう、動機づけしていくことが大事だといわれるようになりました。
その柱となるのが、家族支援です。
家族支援については、過去の記事でも紹介しました。
家族が叱責や説教をやめ、効果的なコミュニケーション方法を学び、本人を治療へと動機づけていくのです。
最近では、CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)という、家族支援のためのプログラムも広まりつつあります。
本人へのコミュニケーションスキルの習得、イネイブリングをやめること、家庭内暴力への対応など、家族が必要とするスキルを順に学んでいくもので、集団で行われることが一般的です。
専門医療機関や精神保健福祉センターなどで、取り入れられていることが多いです。
おわりに
依存症領域では、伝統的に正しいとされてきたけれど、現在では否定されたり疑問視されたりしている考え方がいくつかあります。
今回の「底つき」理論や、自助グループ絶対主義などがそれです。参考までに過去記事を貼っておきます。
kokorofu.com
上記2つの言説は、今でもそれに近い話を聞くことがあり、まだまだ昔ながらの考え方が払拭されていないんだな、と感じます。
私自身も、ここ半年間ほど勉強し直して、ハッと気づかされた視点がいくつもあったりします…。
伝統的な価値観に縛られず、常に新しいものを見ていけるよう心がけたいものです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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