こころふ日記 ~公認心理師が子育てや心理学のことなどを語るブログ~

公認心理師のこころふが、子育てや心理学のことなど気ままに書くブログです。

依存症支援“初心者”のあなたへ②

こんにちは。

心理職として対人援助の仕事をしているこころふです(*^^*)

前回こんな記事を書きました。

kokorofu.com

 今回はその続きとなります。

 

家族支援って何をするの?

依存症支援のなかでも、とても重要なのが家族支援です。

 

そもそも最初に相談に来ることが多いのが家族ですし、

家族の関り方しだいで、本人の回復につながることが多いからです。

 

ここではまず、家族支援の中で出てくることの多い2つの言葉について説明します。

 

共依存

「共依存」という言葉を聞いたことのある人も多いと思います。

まずはこの言葉について説明します。

 

ここでは、アルコール依存の夫、それを支える妻、という典型的な依存症家族を例にとってみたいと思います。

 

夫は毎日頭がお酒のことでいっぱいです。

では、そんなアルコール依存の夫と一緒に暮らす妻は、日々どんなことを考えているのでしょうか?

 

おそらく、お酒ばかり飲んでいる夫が心配もしくは嫌気がさし、どうしたら変わってくれるのだろうと、日々思い悩んでいるはずです。

 

この場合、妻は妻で、“アルコール依存を抱える夫”のことで頭がいっぱいなのです。

これは、依存症者がアルコールや薬物、ギャンブルのことばかり考えている状態と似ています。

この状態を「共依存」といいます。

 

共依存の状態に陥ると、健康的な考え方や行動がしづらくなり、気持ちは落ち込み、不安になり、うつのような状態になってしまいます。

こうなると、本人に対して冷静な対応がとれなくなってしまいます。

 

イネイブリング

次に、これまたよく使われる「イネイブリング(enabling)」という言葉について取り上げます。

enablingは、enable(~を可能にさせる)という英語から派生しています。

 

例を挙げてみます。

ギャンブル依存のある男性が、ギャンブルにのめりこむことにより、多額の借金をつくってしまいました。

それを見かねた両親が、「もう二度とギャンブルをしないと約束するなら、借金を返してあげるよ」と、息子の借金を肩代わりしたとします。

 

両親に感謝し、いっときはギャンブルを止めた男性ですが、賭けに勝ったときの快感が忘れられず、ほどなくしてギャンブルを再開してしまい、また借金をつくり・・・

(このような最悪のループが続いてしまうことは、決して珍しいことではありません)

 

この例では、両親が借金の肩代わりをすることで、男性のギャンブル行動をむしろ続けさせてしまっています。

これが「イネイブリング」とか「尻ぬぐい行動」などと言われる行動です。

 

「共依存」と「イネイブリング」については、過去にも書いています。参考までに。

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家族が気をつけるべきこと

「共依存」「イネイブリング」といった言葉を紹介しましたが、家族がすべきことは、共依存から脱し、イネイブリング行動を止めることです。

 

そのためにも、まず支援者がやるべきことは、家族に対して、

家族が共依存といった状態に陥っていること、イネイブリングすることで依存行動を助長してしまっていることを説明し、理解してもらうことです。

 

もちろん、それだけで家族が本人に対する行動をがらりと変えるのは難しいですが、

少なくとも改善への一歩を踏み出したことになります。

 

効果的なコミュニケーション

先ほどの借金肩代わりの例では、わかりやすいNG対応を挙げましたが、

よくない対応方法はたくさんあります。

感情的に怒ったり、くどくどと説教したり、相手をこきおろしたり・・・

こういったネガティブなかかわり方は、本人との関係を悪化させるだけなので、よくありません。

 

ではどんなかかわり方がよいのか?

 

できるだけ穏やかでポジティブなコミュニケーションを心掛けることです。

 

些細ではあっても、相手のできているところ、頑張っているところを見つけることが大事です。

そういったポジティブな面に着目することで、自然と本人との関係性はよくなっていきます。

関係性がよくなれば、家族からの提案もしやすくなります。

 

I(私)メッセージという方法もあります。

「私は、あなたにはお酒の量を減らしてもらいたい」

「私は、もう少し家事を手伝ってもらいたいと思っている」

という具合に、I(私)を主語に話す方法です。

 

この話し方だと、あくまで「私」がそう思っているということを伝えるにすぎないので、相手への押しつけがましさが弱まります。

 

逆に、Youメッセージ、つまり「あなたは〇〇すべき」といった話し方は、押しつけ感が強いので相手の反感を買ってしまいやすいです。

 

家族自身が生活を楽しむ

先ほど共依存について書きましたが、ひとたび共依存に陥ってしまうと、

依存問題を抱える本人に対して、過度に気にしすぎたり、感情的に責めてしまったりと、いいことがありません。

 

どうしたらそのような状況を脱せるのかといえば、本人とは日常生活で距離をとって生活をすることが望ましいです。

そして、趣味を楽しんだり、友達とおしゃべりをしたりといった、自分だけのリフレッシュできる時間をもつべきです。

 

「家族(依存問題のある本人)が大変なときに自分だけ趣味を楽しもうなんて不謹慎だ」と言う方も多いのですが、そう思うこと自体が本人に巻き込まれている証拠です。

 

本人の依存問題とは全く別の、楽しいことに気持ちや考えを向けることが、結局はいろいろとうまくいきやすくなります。 

 

家族教室

これまで家族がするべき対応、すべきでない対応を挙げてきましたが、

こういったノウハウを知るのにうってつけなのが家族教室です。

 

家族教室は、専門の医療機関や、精神保健福祉センターなどで行われています。

ダルクでも家族勉強会を開いているところがありました。

 

家族の依存問題で悩んでいる人たちが集まる場所なので、悩みを共有できたり、

一歩先ゆく先輩参加者に、“どうやって問題を乗り越えてきたのか”生きたアドバイスを聞くこともできます。

 

支援者の方であれば、所属する相談機関で行っているかもしれません。

 

私も家族教室を開催する側の人間でしたが、基本になるプログラムがあって、それ以外にも家族が自由に話すミーティングの時間を設けたり、当事者の方を講師として招いたり、といった感じでいろいろ工夫しながらやっていました。

 

思うようにプログラムを回せず思い悩むこともありましたが、参加されるご家族に助けられることも多かったですね。

 

その中で感じたのは、プログラムそのものよりも、家族同士が交流を通じて、「苦しんでいるのは自分だけじゃないんだ」と安心をしたり、本人への関り方のヒントを得たりといった部分の方が大事なんだろうなということでした。

 

家族同士の自助パワーを感じることのできる貴重な体験でした。

 

 なお、家族支援については過去にも記事を書いています。これまた参考までに。

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本人支援って何をするの?

次に本人支援について書いていきます。

ウェルカムな態度で臨む

家族が先に相談に来て、そのうち本人が相談の場面に登場するということもありますし、少数派ではありますが、最初から本人が来るという場合もあります。

 

いずれにせよ、世の中の依存問題を抱える方たち全体の中では、ほんの一握りのはずです。

 

多くの場合、相当な覚悟をもって相談に来ていると思うので、そこに敬意を払い、

できる限りウェルカムな態度で対応に臨むようにしています。

 

そうすることは、結果的に、継続的に相談に来てもらうことにつながります。

 

診断(見立て)をする

医療機関であれば診断を、医師がいなくても「〇〇依存の傾向がありそうだな」と見立てをしたうえで、支援の方向付けをします。

 

自分が継続的にフォローしていくのか、他の相談先を案内したほうがいいのか、などと判断をしていくことになります。

 

適切な相談先を案内する

相談先を案内する場合、やはり医療機関や自助グループ、ダルク、精神保健福祉センターなどが候補となります。

 

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参考:ダルク 回復する依存者たち――その実践と多様な回復支援

 

また、依存問題だけでなく「そもそも知的障害や発達障害があるのではないか」「日中活動の場所が必要なんじゃないか」「就労支援が必要なのではないか」「お金の使い方の支援をした方がいいんじゃないか」などといったいろいろな課題が見えてくることも多いです。

 

そういった場合は、自治体の福祉課や発達障害者支援センター、就労相談センター、社会福祉協議会などとの連携も必要になってきます。

 

最初はなかなか難しいと思いますが、相談者の話を聴くなかで、どんな支援機関が合うのかを考えたり、その機関とのつなぎ役になったりといったことも大事なポイントになります。

 

当事者(本人)向けのプログラムを行う

 当事者(本人)向けのプログラムを受けてもらうことも選択肢の一つです。

 

プログラムにもいろいろとありますが、おそらく最も有名なのがSMARPPでしょう。

よくわかるSMARPP―あなたにもできる薬物依存者支援

 

国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生が開発した、認知行動療法をベースとした薬物依存症治療回復プログラムです。 

 

SMARPPおよび、その類縁のプログラム(TAMARPP、だるま~ぷなどのご当地プログラムのこと)も含めれば、全国各地いろいろなところで実施されています。

 

専門医療機関や精神保健福祉センター、ダルク、保護観察所などなど、さまざまな機関で活用されています。

 

詳しくはこちらをお読みください(*^^*)

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 ここでも、やはり大切なのはプログラムそのものよりも、本人がプログラム参加を通して、同じ依存問題に悩む仲間や支援者とつながれることなのだと思います。

 

そして、実はその先にある個別支援の方が大事なのだろうとも思います。 

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 おわりに

というわけで、「依存症支援“初心者”のあたなへ」と銘打って、

依存症支援のポイントを過去記事を再構成するような形で書いてみました。

 

①の方でも書きましたが、私が依存症支援を始めたばかりのころに、読めたらよかったな~と思うような内容にしました。

 

初めて依存症支援をすることになってどうしたらいいかと戸惑っている方、また単純に「依存症ってよくわからないから知りたい」という方にとって、少しでも役に立てたなら、これほどありがたいことはありません(*^^*)

 

最後まで読んでいただき、ありがとうざいます!

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