こんにちは。
2児の父であり、現在育休中のこころふです。
これまで子育ての話が中心でしたが、そろそろ別のテーマをと思い、 今回は「依存症」に関する記事を書くことにしました。
なぜかというと、私自身が以前、依存症支援に携わっていたからです。
その中で、依存問題の奥深さ、支援するやりがい、そして当事者さんたちとの交流に、いろいろな面で心を動かされてきました。なので、思い入れがあるテーマです。
今でこそ、依存症支援にガッツリ関わるということはありませんが、いつかはまた関わらせてもらいたいという気持ちもあります。
まぁこのへんは個人的な話なので、さっさと本題に入りましょう。
ご興味のある方はぜひお読みください!
人はなぜ依存症になるのか?
この見出しは、エドワード・カンツィアンという精神科医が著した本のタイトルです。
翻訳しているのは、国内で薬物依存研究の最前線におられる精神科医の松本俊彦先生です。国立精神・神経医療研究センターに所属されています。
松本先生の講演をじかに聞いたことがありますが、軽妙なトークとときに見せる熱弁にとても引き込まれ、感銘を受けました。
さて、人はなぜ依存症になるのでしょう?
よく説明されるのが、覚せい剤や大麻、アルコールなどの物質依存でいえば、繰り返し摂取することで、その物質の薬理作用により、脳が薬物を摂取することが当たり前の状態だと錯覚してしまい、やめられなくなる、というものがあります。
ドーパミンという快感物質が脳内に多く分泌され、快感を覚えることで、やめられなくなるとも言われます。
これらの説明は、もっともらしく聞こえますし、間違っているとまでは言えないのですが、これだけで依存症のメカニズムを説明できているわけでもありません。
なぜなら、ヘロイン、コカイン、覚せい剤、大麻などの物質を摂取したとしても、それで依存症になる人と、そうでない人がいるからです。
例えば、覚せい剤を一度でも使ったことのある人のうち、将来依存症になる人の割合は15%ほどだそうです。
「え?たったの15パーセント?」「残りの85%は依存しないの?」
と意外に思ったのは、私だけではないでしょう。
違法薬物に手を出したとしても、深刻な依存症にまで陥る人は、どちらかというと少数派なのです。
依存症になる人、ならない人、違いはどこにあるのでしょうか?
自己治療仮説
ここで出てくるのが、カンツィアンの「自己治療仮説」です。
簡単に言うと、薬物などの物質を摂取するのは、自身の生きづらさ、孤独感といった辛い気持ちを和らげる(つまり自己治療する)ためなのではないか、という考え方です。
深刻な依存症に陥ってしまう人の多くは、薬物にハマる前から別の精神疾患をもっていたり、強い孤独や生きづらさを感じている場合が多いのです。
この自己治療仮説ですが、移り変わりの早い精神医学の理論のなかにあって、カンツィアンが提唱した1980年代半ば以降、今でも役に立つ仮説として生きています。
一般的に、薬物を使った人がやめられなくなってしまうのは、使ったときの快感が脳を刺激し、またその快感を求めるために使うから、と考えられがちだと思います。
つまり、
快感がない → 薬物を使う → 快感がある
というプロセスがあるわけです。
行動の結果、なかったもの(この場合は快感)が表われ、行動が増える(強化される)といった現象。
これを行動分析学的には、「正の強化」といいます。
確かにそれは一つの要因ではあるのですが、それだけでは、同じ薬物を使用しても続かない、依存しない人たちがいることを説明できません。
もっと重要なことは、「負の強化」といわれる現象です。
つまり、
つらい気持ちがある → 薬物を使う → つらい気持ちがない
という、行動の結果あったもの(この場合はつらい気持ち)がなくなり、その行動が増える(強化される)というプロセスです。
実は、この「負の強化」こそが、依存症の主要なメカニズムなのではないかと言われているのです。
大事なのは「人とのつながり」
これまでの内容を聞くと、いわゆる依存症者のイメージが変わってきます。
一般的にはまだ、「依存症なんて意志が弱いからなるんだ」「だらしがないからだ」と言う人も多いと思います。
しかし実態は、精神疾患や強い孤独感、生きづらさにより、「生きていくために薬物に頼らざるを得ない」という人が多いのです。
このような人たちを、「意志が弱いからだ」「罰が甘いからだ。もっと厳罰化するべきだ」などと批判したとしましょう。すると精神的、社会的に追い詰められ、より多くの薬物に依存せざるを得なくなる可能性があります。
ではどうしたらよいのでしょうか?
依存症から回復するために必要なことは、厳罰化などの強硬策ではなく、「人とのつながり」です。
孤独感や生きづらさを和らげてくれる、人とのつながりなのです。
変な言い方に聞こえるかもしれませんが、依存症を抱える人の特徴は、「人に上手に依存できない」ことだと言われます。
苦しい、辛いときに「辛い」と言えずに我慢してしまう。
それゆえ、覚せい剤などの物質に依存してしまうのです。
人に依存することは悪いことではありません。
誰でも誰かに支えられながら生きています。
支えてくれる人は、家族だったり、恋人や友人だったり、相談機関の支援者や自助グループの仲間だったりと、いろいろなケースが考えられます。
家族や恋人など身近な人だけで当事者を支えるのは、感情的に巻き込まれやすく、「共依存」というずぶずぶの関係に陥りやすいと言われているので、できれば相談機関の支援者や、自助グループの人など、第三者にも協力・支援してもらう方がよいでしょう。
日本では、まだまだ「薬物使用=犯罪」というイメージだけが強く、治療・支援が必要な「病気」(厳密には、薬物使用障害という「障害」)という認識は薄いと思います。
今後、薬物依存者が、人とのつながりを取り戻しやすい社会になることを切に願っています。
今回は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
*参考文献
『人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション』(著:エドワード・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ 訳:松本俊彦)
『薬物依存症』(著:松本俊彦)
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