こころふ日記 ~公認心理師が子育てや心理学のことなどを語るブログ~

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シリーズ依存症⑫ 香川県のゲーム規制条例の問題点

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こんにちは。

公認心理師のこころふです。

 

最近、ゲーム依存についての記事を書きました。これです↓↓

その中でもちょっとだけ触れましたが、香川県でいわゆる「ゲーム規制条例」がつくられ、話題となりました。今回はそのことについて、深堀りしてみます。

 

この条例は、2022年に発行予定のWHOがつくるICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)の最新版に、Gaming disorder(ゲーム障害、ゲーム症)という精神障害が収載されることが決まったことを受けて、つくられたものです。

 

私も関心があったため、いろいろな人の意見を見聞きしてきましたが、その中でどのような点が批判されているのか、その問題点について分かったことを簡単にまとめてみたいと思います。

 

ゲーム規制条例とは?

正式名称は、「ネット・ゲーム依存症対策条例」です。

香川県に住む18歳未満の人を対象に、コンピュータゲームは160分まで(休日は90分まで)、スマートフォンの使用を中学生以下は21時まで、それ以外の子どもは22時までとする目安が掲げられました。

守らなかったからといって、特に罰則規定はありません。

 

各所からの批判をよそに、この条例は20204月より施行されました。

批判はその後も続き、施行直後には香川県内の高校生が基本的人権に反するのではないかと香川県を訴えたり、香川県の弁護士会でも反対声明が出されたりと、様々な物議をかもしています。

 

しかし一方で、香川県内の親御さんたちからは、一定の支持を受けているとも聞きます。

個人的に、この気持ちはわからないでもありません。

というのも、私も相談の現場で、自分の子どもが目の色を変えてゲームにのめりこみすぎてしまうことに悩む親御さんたちを、数多く見てきたからです。

中には、たしかに「ゲーム依存」と呼んでもいいような、深刻な状態に陥っている子もいました。

そのような親御さんにとって、条例で上限が設定されているということが、子どもに「待った」をかけるための印籠のようなものになるかもしれません。

 

ではなぜ批判されているのでしょうか?

以下、この条例のどういった部分が問題視されているのかを書きたいと思います。

 

何が問題視されているのか?

①家庭内の問題なのでは?

まず、行政が家庭内の問題に介入することはよしとされません。当たり前ですが、ネット利用やゲームプレイは違法な行為ではないので、それらをどのくらい子どもに許容するかは家庭の問題と見るべきでしょう。

 

また、ゲーム依存に陥る人は、ゲーム利用者のうちごく一部です。

先行研究によれば、ゲーム利用者のうち、ゲーム依存に発展するのは1.7%です。

にもかかわらず、県民全体に対して一律にネット・ゲームの規制をかけることに意味があるのか、大いに疑問です。

 

②時間制限することで改善されるのか?

時間を制限することにより、ネットやゲームへの依存が改善されたり予防されたりというエビデンスはありません。

 

依存症の中核的な症状はコントロール障害です。

自分で行動をコントロールできないから依存症なのです。

罰則もない条例で規制ができたところで、「じゃあ制限しよう」とあっさり止めたり時間を減らせる人だとしたら、もともと問題にはならないのです。

 

「すでに依存状態になっている人はともかく、予防には役立つんじゃないか?」という意見もあるかもしれません。

しかし、先にも述べた通り、時間を制限して予防できるというエビデンスはありません。

そもそも「長時間プレイすること=依存症」ではありません。

長時間プレイしていたとしても、生活面で問題がなければゲーム障害ではないのです。

 

逆に、時間がそれほど長くなくても、必要な場面でゲームを止めることができず、日常生活に大きな支障が出てしまうようであればゲーム障害と言えるかもしれません。

 

③条例制定までのプロセスの怪しさ

条例の内容そのものではなく、制定までの過程の問題も指摘されています。

特に、パブリックコメント、いわゆるパブコメ(県民から条例に対する意見を募る)では、賛成意見が水増しされたのではないか、と指摘されています。

検証されている動画などを見ると、明らかに不自然と言わざるを得ません。

短期間のうちに賛成意見が連続で投稿されていたり、同じ誤字が複数のコメントに散見されたり、コメントのパターンが極端に似通っていたり、と怪しさしかありません…。

 

韓国のゲームシャットダウン制度

実は、似たような制度がご近所韓国で実施されたことがありましたので、参考までに書いておきます。

2011年に施行された、いわゆる「ゲームシャットダウン制度」というものです。

 

韓国では、2002年、ネットカフェで86時間オンラインゲームをプレイし続けた20代の男性が死亡するという事件が起きました。

現地警察によると「極度の疲労」が死因ではないかとされています。

 

この事件などを契機に、韓国ではオンラインゲームへの否定的な意見が強まり、国が規制するという流れになりました。

16歳未満の青少年には午前0時から6時までの6時間、オンラインゲームの利用を禁止するという内容で、通称“シンデレラ法”とも呼ばれました。

韓国には当時から、国民に住民登録番号という識別番号が割り振られており、0時以降オンラインゲームにアクセスする際に番号の入力が必要になるというシステムを導入したのです。

 

しかし、結果的にこの制度は失敗しています。

施行された翌年2012年には一時的にオンラインゲーム利用時間が減ったのですが、その後再度増えていき、2014年には施行前のプレイ時間を超えてしまいました。

結局のところ子どもたちは、親などの登録番号を拝借してせっせとオンラインゲームにアクセスしていたわけです。

 

韓国の研究者は「シャットダウン政策は青少年のインターネット使用を削減できなかったため、政策立案者は異なる戦略をとるべき」と結論づけています。

また、シャットダウン制度により、韓国のゲーム業界は大きな打撃を受け、産業の衰退を招いたと言われています。

香川県で条例が制定されたからには、その結果を追跡すべきですが、韓国の制度の失敗を見るに、上手くいく可能性は低いと思われます。

 

条例による悪影響のおそれも

以前の記事でも述べたように、ネットやゲームに過剰にのめりこんでしまう人の特徴として、不安や抑うつなどの精神的な苦痛や発達障害が背景にあるケースが多いと言われています。

つまり、過剰なネット・ゲームの利用は、その結果である可能性があるのです。

 

例えば、学校でいじめられ不登校となり、家庭でも理解してもらえず居場所がないと感じている子が、唯一の逃げ道としてオンラインゲームにハマったとします。

オンライン上では分かり合える仲間ができ、その腕を買われ頼られる存在になったとします。

Aくんにとっては唯一の大事な居場所といえるでしょう。

 

ところが、保護者が「条例で決まったから」と、ゲーム機器を無理やり奪ってしまったとします。

Aくんからしたら、唯一の居場所を失い、親への不信感も強まり、絶望的な気持ちになったとしても不思議ではありません。

自暴自棄になり、親への暴力、ひきこもりなどの問題に発展する可能性もあります。

 

私自身も、生活に支障が出るほどのゲームプレイがいいとは思いませんが、そうなってしまうだけの理由があるということを是非考えてほしいと思います。

ゲームやネットを「一律に」規制してしまうことの問題を考えていくべきだと思います。

 

おわりに

今回は、香川県のゲーム規制条例に関して、なぜ批判されているのかを中心に書きました。

何も依存症への対策が不要というわけではなく、その方法に問題があるのではないかということです。

やはり条例で一律に何か制限を課すという方法がうまくいくとは考えづらいです。

もっと個々の背景にある、辛い気持ちや生きづらさに目を向け、それを和らげてあげるような対応が必要になってくるのだと思います。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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